イベントレポート:2016 ユーザーズミーティング
2016.03.31 Update
イベントレポート:2016 ユーザーズミーティング
2016年2月10日(水)三田NNホールにて、ユーザーズミーティングを開催いたしました。
今回のユーザーズミーティングは、XPS, AES, SIMSを一緒にして開催いたしました。手法の枠を超えたユーザー様同士の交流の場としてご活用いただけたのではないかと自負しております。
本年は4名のユーザー様をお招きし、普段は聞くことができない貴重な内容のご講演をいただきました。
発表をご快諾いただきました皆様に改めて御礼申し上げます。
当社分析室からは3件の分析例をご報告し、また、営業部からはカスタム製品事例について紹介いたしました。さらに今回は、ユーザーズミーティングでは初の試みとなる「自由討論」のセッションを設け、様々なご意見を伺うことができました。
それでは早速、ユーザーズミーティングの模様をお伝えします。
ユーザーご発表
埋もれた情報を取り出す技術「HAXPES」への期待
「放射光および実験室HAXPESを利用した応用事例の紹介」
東芝ナノアナリシス株式会社 佐瀬 輝彦 様
過去10年にわたりSpring-8をはじめとするHAXPES(硬X線光電子分光)での実績を数多く積まれている東芝ナノアナリシスの佐瀬様からは、放射光HAXPES、実験室HAXPESおよびXPSの違いについて、実際の分析例を交えてご説明いただきました。
放射光HAXPESは、得られる情報の深さや内殻準位の光電子を用いた評価が可能な点では優れているものの、タイムリーな分析が出来ないことから、実験室においてより高い励起エネルギーで分析が可能なHAXPES装置に期待しているとのお話でした。
会場では定量や状態分析などについて質疑が交わされ、今後のデータベース蓄積への期待などユーザーの関心の高さも伺えるご講演でした。
電池材料の"その場観察"を見据えて
「走査型オージェ電子顕微鏡(SAM)によるリチウムの化学状態分析」
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 石田 暢之 様
電池材料のその場観察を中心に研究を進められている物質・材料研究機構の石田様からは、AESを用いたリチウムの化学状態分析についてお話いただきました。
空間分解能の高さ、化学状態分析が可能であること、装置としての汎用性などの理由で、リチウムを分析対象としたAES分析に着目され、金属リチウムの酸化過程の観察や実電池材料におけるリチウムの分析事例などをご紹介いただきました。
充電量によるリチウム量の変化を可視化するなど興味深い結果が多く報告され、質疑ではリチウムの挙動について白熱した議論が展開されました。
毛髪の傷みがTOF-SIMSでわかります
「TOF-SIMSによる毛髪最表面の構造解析」
花王株式会社 岡本 昌幸 様
花王の岡本様からは、TOF-SIMSを用いた毛髪表面の分析事例を紹介いただきました。
毛髪が受けたダメージについて、表面層にだけ特異的に存在する"18-メチルエイコサエン酸"をTOF-SIMSを用いて測定する評価法が講演され、ダメージの少ないヘアケア製品の開発にTOF-SIMSが有効活用されているとのことでした。そのほか、GCIB(ガスクラスターイオン銃)を利用した分析例として、キューティクル一枚のなかのシステインの深さ方向分布についてお話しいただきました。
身近な毛髪ダメージの解析に関する講演で、聴講者の関心も高く、活発な質疑がありました。特にGCIBを用いた生体試料の分析に多くのご質問が寄せられました。TOF-SIMSという表面分析を通して、身近な毛髪の性質が分かってしまうという大変興味深いご講演でした。
ガラス中の水素拡散量を把握するために
「D-SIMSによるガラス中水素の深さ方向プロファイル分析」
旭硝子株式会社 山本 雄一 様
各種表面分析手法を用いたガラス表面の研究を精力的に行っている旭硝子の山本様からは、D-SIMSによるガラス中の水素拡散量の分析結果をご報告いただきました。
太陽電池など電子部材への用途が拡大しているフロート法ソーダライムガラスについて、その表面性状を把握するためガラス中に拡散する水素量をXPSより予測し、これをD-SIMSにより実証した例について分析条件の最適化とともにご発表いただきました。
会場からは分析条件最適化について質問があり、また、H+はNa+のような可動イオンに比べて動きにくい事が新たな知見として示されるなど議論が深まりました。
アルバック・ファイより
分析室からは、現在開発を進めている新装置(ラボ型 硬X線光電子分光装置)・新技術(MS/MS)、また、海外で開催された学会(SIMS-XX, ECASIA'15, AVS-62)の動向や発表内容をトピックスにまとめ、それぞれ紹介いたしました。
- 「ラボ型 硬X線光電子分光分析装置を用いた測定事例の紹介」(井上りさよ /写真左)
- 「MS/MSを搭載した PHI nanoTOF II を用いた有機材料のスペクトル解析」(飯田真一/写真中)
- 「海外学会動向 - SIMS-XX, ECASIA'15, AVS-62 -」(宮山卓也 /写真右)
自由討論
初の試みとなる「自由討論」は、ユーザーの皆様同士で自由闊達に討論いただく機会を作ることを目的として行いました。
事前に募集した AES, XPS, TOF-SIMS, Dynamic-SIMS に関する質問の中から、各手法ごとに議題をひとつ取り上げ、自由に発言いただくスタイルで進めました。進行役を努めた国内営業部長の名(迷?)司会が功を奏したのか、会場の雰囲気はとても和やかで、多くの方に発言いただくことができました。
普段実践している対処法やアイデアを聞く機会はとても貴重であり、会場内を見渡すと、深く頷きながらメモを取ったり、興味深く耳を傾けていらっしゃる姿が多く見られました。
各手法の身近な疑問点を取り上げて、フランクに意見交換したアイデアや結果を、日々の業務のヒントとして持ち帰っていただくことができたならばこの上ない喜びです。また、皆様のご協力に深く感謝いたします。
アンケートの中で「楽しかった!」「続けて実施して欲しい」と嬉しいご回答を多数いただきました。今後も継続して実施していきたいと思っておりますので、次回を楽しみにお待ちください!
ユーザーズミーティングを終えて
ご参加いただきましたユーザーの皆様へ
今回のユーザーズミーティングでは新しいことを取り入れてみました。不慣れなこともあり反省点は多かったのですが、皆様にはいかがでしたでしょうか?
自由討論に関しては面白いエピソードが生まれました。後日談として報告いたします。
粉体試料の取扱いに関する議題(XPS)で、Y様から「(絶縁物の粉が)帯電してはじけ飛んでしまう」ことにお困りであり、その回避策をご質問として投げかけていただきました。残念ながらこの解は出ず、寺島(当社分析室)の「気合い!」という根性論で終わりました(笑)。
この議題が、懇親会、またその後の2次会で盛り上がることになったのです。
「鈴木さん、回避策を思い出したよ!!」懇親会でI様からお声掛けをいただきました。前述のY様も交え、数名のユーザー様と伺ったその回避策とは、帯電してしまう粉体試料を水・エタノールなどの液体に浸し濡れた状態のままイントロで荒引きしてしまうという方法です。粉体のはじけ飛びや帯電がなくなるそうです。
このお話しを伺ったテーブルでは「どうしてなのか?」と議論が始まりました。I様を中心に皆様と議論し立てた仮説は「真空排気時の空気対流による表面摩擦(静電気が発生)を液体が保護しているのでは?」というもの。また真空度が上がるにつれ蒸発し無くなるため分析にも支障が出ない、という議論でした。
2次会では、さらにT様から「エレガードを試料にスプレーしてしまう法」を披露いただきました。色々出てきた方法には、賛否両論、意見が分かれました。「表面分析では試料表面に何も施したくない」「結局、粉体が吹き飛ばない様に押し固めるのが一番なのでは・・・?」など。
ユーザーズミーティングに関して、皆様からは色々とアドバイスをいただきました。そのご意見を取り入れ、今後も、皆様のお役に立ち、また楽しい企画をスタッフ一同で検討して行きます。
これからもユーザーズミーティングへ積極的にご参加下さい。ありがとうございました。
アルバック・ファイ株式会社 国内営業部
鈴木 隆彦
(レポート作成:アルバック・ファイ株式会社)