AESとは
AESとは
原理
オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)は、試料表面に細く絞った電子線を照射し、試料表面から放出されるオージェ電子の運動エネルギーを計測することで、試料表面を構成する元素とその組成、化学結合状態を分析する手法です。試料から放出されるオージェ電子のエネルギーは元素に固有な値を持つため、電子のエネルギーを計測することによって、試料表面の元素の同定が可能になります。オージェ電子がエネルギーを保って試料から出てこられる深さは数nmしかないため、オージェ分光は試料の表面数nmのみを分析対象とします。照射する電子線は5 nm以下に絞ることが出来るので、試料の極々微小な領域の分析が可能です。
SEM
元素マップ
赤:Mn 緑:Ni
励起源(FE電子銃)
オージェ電子分光の励起源にはSEMにも用いられる加熱型の電界放出(FE:Field Emission)電子源が用いられます。FE電子源では電子のビーム径を試料上で5 nm以下に集束させるとともに、高い電流密度を得ることが可能となります。
エンクロージャ
5 nm以下の微小な領域を分析するためには電子ビームを安定して試料の一箇所に当て続ける必要があります。そのため、微小領域を測定するオージェ分析装置には、外部からの音響(音圧)による振動や温度の変動を遮断できるエンクロージャが備わっています。
検出系(電子銃同軸型CMA電子アナライザー)
オージェ電子のエネルギー分析器に用いられる円筒鏡型(Cylindrical Mirror Analyzer, CMA)電子アナライザーは中心軸上に電子銃を備えることが可能です。このような電子銃同軸CMA型電子アナライザーを用いると、試料から360°全方位に放出されるオージェ電子を検出することができるので、凹凸のある複雑な形状の試料でも影なく測定が可能です。
帯電補償機構(アルゴンイオン中和)
オージェ電子分光は入射ビームに負電荷をもつ電子を用いているので、絶縁物を測定する場合は、測定箇所にたまる負電荷(帯電)を中和する必要があります。アルゴンイオン銃から低速のアルゴンイオン(正電荷)を測定箇所に照射することにより、試料上の帯電を打ち消し、絶縁物でもオージェ測定が可能になります。
a)中和なし |
b)中和あり |
a)イオン中和を用いない場合、激しい帯電を示すSEM像。
b)イオン中和を用いた場合のSEM像
深さ方向分析(アルゴンイオン銃)
オージェで評価可能な情報深さは表面から数nmの領域であるため、表面汚染層が厚い場合や、より深い領域を評価したい場合は、イオンスパッタリングを利用して表面エッチングを行います。スパッタと測定を交互に繰り返して得られたスペクトル情報から元素の組成について深さ方向プロファイルを得ることが可能となります。深さ方向プロファイルは多層構造をもつ試料の膜厚評価や、金属の変色・腐食の原因解析などに利用されています。オージェの深さ方向分析には一般にアルゴン(Ar)イオンが用いられます。