表面分析とは

表面分析とは

固体表面の特性や機能は、表面の化学構造によって決まります。この固体の表面数原子層という非常に浅く薄い領域の化学構造を明らかにする手法が表面分析法です。現在の表面分析装置を用いることによって、他の分析手法では不可能な表面数原子層のみに存在する物質の元素組成や化学状態を分析することができます。表面分析法は、多くの産業・科学研究分野において、新しい特性や機能を備えた物質の研究開発・品質管理に欠くことのできない手法として、長年にわたり、時代の要請と共に進歩を遂げてきました。

表面分析の用途

物質材料のもっとも外側である表面は、材料の化学的活性、接着、濡れ、電気特性、光学特性、耐蝕、摩擦、生体適合性等の表面特性を担っている一方で、環境中での劣化や汚染・プロセス残留物の付着などによりその特性が損なわれやすい、きわめて繊細な部分です。

したがって、表面分析は、新しい高機能な表面や、それを利用した製品を開発するために使われるだけではなく、高機能な物質がその本来の機能を正しく発揮するためにも役立っています。たとえば、半導体製造過程では、ごくわずかな表面の汚染や異物の付着によって、製品の品質基準が満たされなくなることがあります。また、汚染を発見しても、その原因が何なのかを明らかにする為には、まず汚染成分の分析を行う必要があります。

このようにして、近年の科学技術の進歩や産業の発展に、表面分析法は貢献してきたといえるでしょう。

表面分析の原理

固体表面を調べるためには、まず表面を刺激して、出てくる信号を調べます。表面の刺激には、光・X線・電子が用いられています。このような表面刺激によって出てくるさまざまな信号の中から、表面だけから出てくる電子・イオンなどの粒子を観察し、その特性を解析することにより表面の化学構造を明らかにすることができます。

しかし、調べたい部分の表面からの深さは、表面数原子層という極端に浅い領域だけとは限りません。数十ナノメートルから数百ナノメートルというような、少し深い領域の情報が必要な場合もあります。この場合は深さ方向分析という手法が用いられます。Arイオンなどを用いて表面を削り、その削った痕を測定するという一連の流れを繰り返すことで、表面からやや深い領域も調べることができます。

固体のごく表面の数原子層を調べるためには、測定環境の影響を極力小さくする必要があります。そのために、実際に分析をおこなうときは、固体試料を真空の中に入れて測定します。表面分析装置内は、超高真空とよばれる、十億分の1気圧以下という減圧状態がつくられています。このような環境下で、X線・イオン・電子などの荷電粒子を自由にコントロールして、表面に照射することによって、表面の化学構造に関する情報を正しく検出できるようになります。

hyoumen2_01.jpg

表面分析の種類と特徴

表面分析の代表的な種類には、XPS、TOF-SIMS、AESなどがあります。

XPSは、X線を照射して光電効果によって発生する光電子のエネルギーを分析する手法であり、表面の組成と化学結合状態の分析ができることが特徴です。また、分析領域はせいぜい数ミクロン程度以上に限定されますが、有機・無機を問わず、さまざまな材料の表面分析に使用可能なことが特徴となっています。

TOF-SIMSは、高速のイオンを照射して表面から放出される二次イオンの質量を分析する手法です。極めて高い表面感度と、有機化合物の分子量の情報が得られること、また、高感度な無機元素分析ができることが特徴です。従来は半導体や表示材料の表面金属汚染・有機物の分析に用いられてきましたが、近年は、有機材料表面の有機物の分布や偏析の分析に用いられています。

AESは、電子線を試料に照射して発生するオージェ電子を観察し、表面の定性・定量分析を行います。AESは一次励起線が電子であるために、走査電子顕微鏡としての機能を持っています。また、他の表面分析法と比較して空間分解能が非常に高いことが特徴です。AESは、主に金属や半導体の表面や表面微小異物の観察に威力を発揮します。

次に、XPS、TOF-SIMS、AESについて、それぞれの原理とくわしい特徴を見ていきましょう。

hyoumen2_03.jpg